およそ五百万年前、中国大陸や九州から切り離された南西諸島――九州の南端から連なる孤立した亜熱帯の島々。その南西諸島の一角に、奄美大島がある。
 奄美大島には島固有の生きものが多く、国の特別天然記念物・アマミノクロウサギをはじめ、ルリカケス、オオトラツグミ、オーストンオオアカゲラなど「種の保存法」による国内希少種が生息している。ところが近年、大規模な土木工事による自然環境の破壊やゴルフ場建設計画がすすめられ、動物たちへの影響が懸念されている。
 この映画では永年の記録映像から、亜熱帯特有の自然景観と生きものたちの生態を通して、奄美大島の多種多様な生物相を克明に描きだす。また、島の動物に関わる人々へのインタビューから奄美大島の現状を見つめ、野生生物をも含めた自然環境の保護を考える。




亜熱帯の森
 年間平均雨量、およそ3000ミリ。この豊富な水が、うっそうたる森をつくり生きものたちを育んできた。奄美大島は、島の約85%が森林と原野で成り立っている。しかし今、河川の改修工事や森林伐採、林道建設などで森林や原野が激減しているという。
そんななか残されている、数少ない原生林の一つが金作原の森だ。ここは奇にの保安林で鳥獣保護区となっており、イタジイ、ヒカゲヘゴ、オオタニワタリなどの亜熱帯性の植物に被われている。だが、この原生林の面積はわずか125ha一キロ四方ほどしかない

島固有の動物たち
 ここには、島特有の進化を遂げ生きてきた希少な動物たちが数多く生息している。その中でも特異なのは“生きた化石”といわれ、世界中で徳之島と奄美大島にしかいない、アマミノクロウサギ。ほかにも、ケナガネズミ、アマミヤマシギ、ルリカケス、オーストンオオアカゲラなどレッドデータブックに名を連ねる希少な種が多い。

ハブとマングース
 猛毒をもつことで知られているハブは、島唯一の最終捕食者で数も多い。実際、夜の林道を車で走っていると湧き出してくるようにハブが出没する。奄美の森はハブがいることで、人の侵入や、ノネズミの大繁殖を妨げ、生きものたちの微妙なバランスが保たれてきた。しかし近年、もともと奄美大島には棲んでいなかった食肉獣・マングースが目撃されはじめた。外来動物であるマングースの生息が確認されているということは、島の生態系を崩すことにつながるため固有動物たちへの影響が懸念されている。

奄美のカエルたち
 夜になると活動をはじめるのは、主に両生・爬虫類たち。奄美大島のみに生息する大型のカエル、オットンガエルをはじめ、日本でもっとも美しいといわれるイシカワガエルや、ハナサキガエル、リュウキュウカジカガエルなどが次々と姿を現す。また、それらの獲物を求めてヘビたちも動き出してくる。また、イボイモリも姿を現した。南西諸島には、ここで登場する種を含め希少な両生・爬虫類が数多く生息しているのだ。

リュウキュウアユの産卵
 1988年、アユの原種として学会で発表されたリュウキュウアユ。現在、生息が確認されているのは奄美大島のなかでもわずか4河川にすぎないという。沖縄本島ではすでに絶滅したものと考えられる。そのリュウキュウアユの産卵の瞬間をカメラに収めることに成功――。だが生息の確認されている河川の上流では、川を道路替わりに工事のためのダンプカーが行き交う。

絶滅の危機に瀕した鳥、オオトラツグミ
 天然記念物で絶滅危惧種のオオトラツグミ――この鳥もまた、この島にしか生息していないうえに、生息数は今や100羽ほど。繁殖状況や生態さえほとんど知られていない。夜明け前から日の出の頃までのわずか30分ほどしかみることができないという。トキに次いで最も絶滅に近いとさえいわれている。
オオトラツグミなど、この島に生息する多くの希少動物たちのためにも、島の自然環境をいかにして守っていくかがこれからの課題である。