プロローグ
 雪の斜面を必死に這いずりながら下りるサルがいる。モズというサルだ。モズは、生まれながら四本の手足が不自由なのだ。そのモズの生立ちを示す何枚かのスチール写真――。
 春の志賀高原。谷を移動するサルの群れ。後方から初めての赤ん坊を胸に、モズがゆっくりやってくる。エサ場に現れたサルの群。遅れてきたモズもエサをもらう。モズの赤ん坊モミジは五体満足、健康そのものだった。
 夏、順調に育つモミジ。モズ母子をいたわる苑長の原さん。子ザル同士の遊び。仲間づくりの頃なのだ。時には危険な冒険も…。
 実りの秋。せわしなく動く群。その後を追うモズ母子。ハナレザルの出現。秋には冬に備えた食欲の季節でもあり、交尾の季節でもある。
 冬の志賀高原。吹雪の中で木の皮をかじるサルたち。逞しく育ったモミジ。が、モズは怪我をした。身をかばいながら、必死に群れについてゆくモズ。エサ場。温泉に入るサル。
 三月。早産したメリルュウスが死んだ赤ん坊を持って現れる。三日後、死体の取りあげ。わが子を求めて啼き叫ぶリルュウス。みつめる仲間のサルたち。ニホンザルの母子の絆、母の愛情が迫り伝わってくる。
 春間近の地獄谷。モズは今日も群れの後からやってくる。大きく成長したモミジが母を気使いながら追いこしてゆく――。