モズ親子にみた家族の強い絆
 この映画は、生まれながらにハンディを負ったメスザルの半生を追った長編記録である。地獄谷の四季とともにモズファミリーを追う。言葉にすれば簡単だが、決して9年という歳月は短くない。大変な作業の連続であったが、貴重な映像を記録できたことを心から喜びたい
 おなかに子どもを捕まらせ、ぐっと踏んばるモズ。普通のサルより手足が短いので、よほどがんばらないと子どもを地面にひきずってしまう。
 また、ほかのサルが木から木へ飛び移っていくところを、彼女はひたすら歩いてついていく。 人間なら、そのハンディを乗り越えるのにかなりの精神力を必要とするだろう。それなのに彼女はまるで障害など負っていないかのように平然と子を生み、育ててゆく。その姿は感動的ですらある。
人間とサル、その社会構造に違いがあっても、生命の尊さや愛の深さに変わりはないはずだ。ともすればいのちが軽視されがちな、家族の結びつきが希薄になりがちな現代の人間社会にとって、彼女の生き方は大きな教訓になるように思える。
 この映画は「生命とは」「家族とは」を考える意味でも、貴重なフィルム。一人でも多くの方に鑑賞していただきたい作品である。
モズ
この映画の主役、四肢不自由な16歳のメスザル

モミジ
モズの第一仔、長女。9歳のメスザル。モミコのお母さん

モリ
モズを産んだメスザル。モミジのお婆さん。1982年群れから出て、行方不明
モンシロ
モズの第二仔、長男1980年湯壺に落ち、全身やけどで死亡
モアノ
モズの第三仔、次男。1986年群れを出る

モナミ
モズの第四仔、二女


モミコ
モズの初孫。モミジの第一仔、長女


モズゴロウ
モズの第五仔、三男



トンガ
志賀A群の第七代目リーダー(ボス)。1979年群れが分裂した時、志賀A2群のリーダーとなる
ナンダ
第八代目、現在の志賀A1群のリーダー(ボス)

トモエ
温泉好きのお婆さんザル、トンガのお母さん。志賀A群の旧メスがしら。1984年老衰で死亡
メルリウス
群れのメスザル。1979年子供を早産(死産)

シロウリ
秋、群れに近づくオスのハナレザル。ナンダの宿敵
(志賀A群は1979年にA1群、A2群に分裂)
 長野県志賀高原横湯川。まだ手つかずの自然が残るその地域一帯に、ニホンザルがいる。今から16年前、ある群れに障害のあるサルが出た。名前はモズ。
 四肢の指の数が少なく、充分に分かれていないので、走ることも、飛ぶこともできない。とうてい育たないだろうというのが、野猿公苑関係者の大方の意見だった。
 予想に反してモズは元気に育ち、7歳の春、なんと母親になる。モミジを名づけられたその女の子に障害は見られない。が、新しい家族の誕生は新しい試練の始まりであった。手足の不自由な彼女にとって、子育ては容易な仕事ではない。だが、モズは、いじらしくなるほど懸命にモミジの世話をした。
 1979年3月、衝撃的な事件が起きる。死んだ赤ん坊を抱いたメスザルが現れたのだ。野猿公苑の人々は土へ埋めてやるために、その子をメスザルからとりあげた。悲痛な叫び声をあげ、狂ったようにかけまわるメスザル。その姿にニホンザルの愛情の深さをみた。
 翌年、モズにまた子どもが生まれた。はた目には、この上なく幸福な毎日のように見えたのだったが…。