自然と融和しながら人生を見つめていきたい、そんな今の僕の心情にぴったり…。

西田敏行
自然を題材にした作品に恵まれることが最近増えてきているのですが、自分の考えもその方向に向いてきている気がします。このお話を聞いた時も、即、“やりたい!”でした。自然と融和しながら、人生をみつめていくことは、自分自身でも心がけていますし、自然の雄大さを次代へ語りついでいくことは大切なことだと思います。9年間にわたっての熱意と愛情で完成したこの映画から、生き物は等しく、みんな頑張っているんだということを感じていただければ幸いです。貴重な作品のナレーションを務められたことを感謝するとともに、9年間、フィルムを回しつづけられたスタッフに敬意を表します。
大きな感動とともに、「生きる力とは何か」を考えさせてくれる映画です。
宮城教育大学教授 伊沢紘生
  私たちが、自分の今いる社会や、その社会のなかの自分を深く知ろうとするとき、歴史から大切な多くのことを学びます。同じように、ニホンザルの生きかたの基本を理解しようと思えば、かれらの歴史を、できるだけ長く、忠実に記録し続けることが必要でしょう。
 ニホンザルはふつう「群れ」と呼ばれる、よくまとまった集団で生活しています。そのなかでオスは、生まれた群れに一生とどまることはめったにありません。いずれ自分の母親とも、兄弟とも別れ、ひとりで暮らしたり、オスたちだけで生活したり、別の群れに入ったりをくり返しながら、その一生を終わるのです。一方、メスは生まれてから死ぬまでずっと、一つの群れで暮らします。ですから、自分の母親とも、姉妹とも、おとなになったのちに産むメスのこどもも、死ぬまで一緒に過ごせるわけです。
そのような、母や娘や孫や姉妹は、山野をわたり歩く日々の生活のなかで、いつも気にしあい、娘は母に、母もい老いたり、病むと、娘について行こうとします。この、たがいに気にしあい、積極的について行こうとする行動を通して、彼女らのあいだには頼る頼られる関係が成立し、強い絆で結ばれることになります。
 そして、母と娘をはじめとする血のつながりのあるもの同士の、長続きする強固な絆こそが、ニホンザルの群れの歴史を支える太いたて糸なのです。
 映画「ニホンザル物語 家族」は、手足の大きなハンディを背負って生まれた「モズ」と娘の「モミジ」を中心に、9年の歳月をかけて母子四代を追い続けた貴重な記録です。私たちはこのドキュメンタリーから、ニホンザルの集団生活の基本にあるものを理解することができるでしょう。同時に、それを通して、社会のありようはちがっても、同じ集団生活をする私たちに、「生きるとは」を、大きな感動をともなって考えさせてもくれるはずでしょう。
 ややもすれば生命が軽んじられがちな現代ですが、そうであればこそ、小・中・高の生徒や父母の皆さん、および広く一般の方々に、この映画をぜひ見ていただきたいと思います。
モズから家族へ。テーマは次々広がった。
岩崎 雅典
“モズ”の一挙一投足を凝視することからはじまった撮影は、“モズ”という「個体」にとどまらず、その「家族」であり、「種」としてのニホンザルの生活史にまで及ぶことになった。“モズ”は長女モミジの子育てに成功すると、第2仔、第3仔と次々に家族を増やしていったが、その間、群れの中では様々なドラマがくりひろげられた。幼い生命の誕生と死。老いを迎えたものの行く末。頼り頼られながら生きる家族の姿。誇り高きオスザルたちの戦い。そのありようを観察者の目でできるだけ克明に記録することに徹した。ニホンザルの記録をはじめて、9年。ロケ回数、33回。回ったフィルム総数、6万フィート(約27時間)。参加した撮影スタッフ、13名。しかし、私たちはいつの日か再び“モズ”たちの歴史に向かって再びカメラを回しだすだろう。