日本に生息する猛きん類に中でイヌワシと双璧をなす最強の猛きん「クマタカ」。森で食し、子孫を繁殖させてきた日本最大の鷹がいかにして森の生態系の中で生きてきたのか。この作品は、この鳥に魅せられた研究者とともに長い年月にわたって取材撮影され、深閑とした森の中で、クマタカの知られざる多くの未知の部分を解き明かそうとした生態記録映画である。
 福井県野坂山地――2月中旬、研究者は真冬の山中に分け入り、クマタカの繁殖活動の兆しを確認した。
 雪解けの3月下旬。クマタカの雌はこの時期に卵を産む。山の中腹に立つ一本のアカマツがこの地域をテリトリーにするクマタカ夫婦の営巣木だ。我々は望遠レンズで巣の中を覗いてみる。「いた!」クマタカの雌が卵を抱いている。
 山桜の花も散る頃になると、クマタカの雛もそろそろ卵からかえる。険しい山道を登り観察する。雛は無事かえっていた。純白の綿毛の雛。親タカの巣にいる。すぐに雌は雛を温め、雄は狩りに出る。ノウサギ、ヤマドリ、ヘビなどが主な狩りの標的だが、クマタカは小鳥から獣まで森に生きる様々な動物たちを餌にする。
 約1ヶ月後――白い綿毛の中に黒い羽。雛は日に日に成長し、幼鳥へと逞しく育っていった。
 梅雨の晴れたある日、いつもは静かな森に異変が訪れた。農薬をまき散らすヘリコプター。クマタカはその異変に敏感に反応する。森の生態系の中、その頂点に位置するクマタカにとって獲物となる生きものの減少、また、農薬汚染は深刻な事態となる。伐採される木々、切り崩される山々。森を棲とする生物たちはその生きる場所すら、いま失おうとしていた。
 夏、7月下旬――幼鳥は一見親鳥と間違えるほどに大きく成長していた。まだ拙いが幼鳥は巣の中で、羽ばたき練習や狩りの訓練を入念に繰り返している。あとは巣立ちを待つだけだ。しかし結局、この幼鳥に明快な巣立ちは認められなかった。日毎に枝移りで飛ぶ距離を伸ばし、そしてある日飛び立った。
 滋賀県で活動するクマタカ生態研究グループ。彼らは最新の技術を駆使して、日本では革新的な調査研究を行っていた。巣立ち前の幼鳥を捕獲し、発信機、ウィングマーカーを取り付けての生態観察。春から冬にかけて、克明に一羽の個体の行動を記録してゆき、その知られざる生態を明らかにしていった。早朝の鳴き交わしやテリトリーの侵犯など。研究グループは今もなお新たな視点でその調査を続けている。
 クマタカ。森の中で生き、子孫を繁殖させてきた大型の猛禽。いま環境破壊という新たな厳しさに直面している自然界の中で、クマタカは森を生活の場所として懸命に生き続けている。