長沢和俊(早大文学部教授)

 最近、カヌーやいかだによる黒潮の漂流実験が行われていることからも、明らかなように、日本の“原初文化”は、東南アジア地域を含めた南方文化と密接な関係がある。それらを一つ一つ解きほぐし、知ることは重要である。しかし、原初文化の手がかりとなる生活そのものが、多様に変化し、滅びつつある現在、その作業はなかなか困難となってきている。
 この映画は、秘境トカラ列島に、そうした文化の最後の残影を追い求めたものである。原生林にわけ入り、大木を切り倒す儀式に始まる「丸木舟」造りの一部始終と、ナガサイ漁というこの島独特の追い込み漁を描いている。トカラ列島一帯は、民俗学の盲点ともいわれたほどで、日本における文化的融合点として重要なところといえる。そうした意味合からも、映画が記録している事実は貴重であり、私たちに多くの示唆を与えてくれる。