多摩川野鳥記
監督/岩崎雅典 構成/稲沼太郎
 大都市を流れる多摩川。125キロ、全域が鳥獣保護区に指定され、およそ120種もの野鳥が生息している。
 多摩川は、上流には渓谷、中流には中州や河川敷、下流には干潟とさまざまな表情がある。そしてそれぞれの生活環境を生かし、野鳥たちは生のドラマを見せてくれる。
 特に春の子育てはドラマチック。渓谷の岩のくぼみに巣をつくるミソサザイやキセキレイ。カワガラスはダムの下にある排水溝にちゃっかり巣をつくる。
中流の中州では、カイツブリが葦などを使って浮巣をつくり子育て。カワセミは土手に深さ1mの穴を掘りヒナに懸命にエサを運ぶ。ヤマセミもヘビなどの侵入を防ぐため急傾斜の崖の巣に小魚を運ぶ。中州の木立ではゴイサギやコサギがコロニーをつくっている。
 夏近くになると、幼鳥たちは巣立ち、訓練と学習を繰り返し自分の力でエサを捕るようになる。秋には若鳥に成長し、飛びまわる。
 そして冬、中流にオオタカの勇姿。オオタカは自然界のバランスを保つ食物連鎖の頂点に立つ猛禽類。そんなオオタカがやってくるということは多摩川にはまだ自然の調和が保たれている証である。
 30年前に汚染と開発によって姿を消したカワセミが、10数年前、再び姿を見せはじめたのも、多摩川の復元力なのか、それとも野鳥たちのしたたかな適応力によるものか。しかし、カワセミが巣作りをしていた中州の土手も今また、護岸工事によってなくなろうとしている。

 環境変化におびやかされながらも逞しく生きる多摩川の野鳥たち。その姿を見ていると私たち人間社会のあり方をふと考えさせられる。